副業・兼業における労働時間管理について|残業代が請求できるって本当?

長時間労働や残業代の未払いなどで何かと問題となる労働時間。副業や兼業をする場合でも、実は残業代が発生するって知っていましたか?本記事では、副業における労働時間と残業の関係や計算方法、適用条件などについて解説いたします。

そもそも「労働時間」って?

まず、副業と労働時間の関係についてお話しをする前に、労働時間について改めておさらいをします。労働時間とは、「監督者の下で被雇用者が働く時間」を指します。

所定労働時間と法定労働時間について

労働時間で混同しがちなのが所定労働時間と法定労働時間です。まず、所定労働時間は就業規則や雇用契約書で締結した休憩時間を除く始業から就業までの時間を指します。
労働時間は、労働基準法や労働安全衛生法によって規制されており、休憩を除き1日8時間、週40時間までという規制があります。これを法定労働時間と呼びます。
法定労働時間を超えた場合、雇用主は残業代を支払う必要があり、通常賃金の25%以上の割増賃金を残業代として支払う必要があります。また、法定休日に労働(休日出勤)させた場合は、35%以上の休日手当を支払う必要があります。ただし、下記に該当する場合は、この限りではありません。

・常時10人未満の特例措置対象事業場の場合(1週間44時間までの延長が許可)
・管理監督者(管理職)の場合
・変形労働時間制(フレックスタイム制など)が採用されている場合

残業と36協定

また、36協定の締結を行わなければ、時間外労働をさせることはできません。もし締結しないまま、時間外労働や休日出勤をさせた場合は、労働基準法違反となり罰則対象になります。36協定を締結しても、月45時間、年360時間を超える残業は認められません。超過する場合は特別条項付き36協定を、労働基準監督署に申請をする必要があります。また、特別条項として上限規制を解除できるのは、年6回、月45時間であり、あくまで臨時的な対応時の場合のみとなります。

法定外労働時間になるケース・ならないケース

一般的な労働時間と残業についておさらいしたところで、ここからは副業における労働時間と残業について解説いたします。

法定外労働時間になるケース

まず、労働基準法第 38 条では「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」と規定されているため、本業と副業は合算・通算して労働時間を管理する必要があります。

例1:本業先:所定労働時間…8時間|副業先:所定労働時間…3時間の場合

この場合は、副業先の方で1日8時間の法定労働時間を超過しているため、割増賃金の支払いが必要となります。

例2:本業先:所定労働時間…4時間|副業先:所定労働時間…3時間の契約で、本業先で2時間残業がついた場合

本業先の残業が原因で、法定労働時間を超過したため、本業先で割増賃金の支払いが必要となります。

法定外労働時間にならないケース

請負契約、委任契約などを含む業務委託契約のフリーランス・個人事業主、また役員で副業をしている場合は支払い報酬として受け取るため、残業代や休日出勤などの扱いはありません。自身が副業をしている仕事の労働形態が、雇用契約なのか業務委託契約なのかを事前に確認しましょう。

副業における労働時間の通算見直しについて

2020年9月、厚生労働省は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、新しい労働時間管理の方法「管理モデル」を導入しました。
「管理モデル」では、いわゆる本業にあたる事業者Aにおける法定外労働時間と、後に雇用契約を締結した副業先、事業者Bにおける労働時間を合計した時間が、単月で100時間未満、また月平均80時間以内になる範囲内で、各事業者は労働時間の上限を設定し、その範囲内で労働を指示するものです。
つまり、この管理モデルを導入することで、各々の事業者が決めた範囲内の時間で労働させることで済むようになり、労働者の総労働時間を把握する必要がなくなります。


副業・兼業の場合の労働時間管理について|厚生労働省より引用

ただし、「管理モデル」はあくまで労働者が正確に申告をすることが大前提となっています。各事業者は、副業や兼業を推進しても長時間労働にならないような体制整備やルール設計などが必要となります。

「管理モデル」が適用されないケース

新しく導入される「管理モデル」は労働基準法を基準にしているため、労働基準法が適用されない請負契約や業務委託契約のフリーランス・個人事業主、役員などは適用されません。

副業で労働時間が増えた際の注意点・ポイント

最後に、副業で労働時間が増えた際の注意点・ポイントを解説します。

健康管理

副業における健康管理は、原則、労働者に委ねられますが、事業者側からも労働者に自己管理を行うよう指示することが求められます。副業・兼業の促進に関するガイドラインでは以下のような記載があります。

使用者が労働者の副業・兼業を認めている場合は、健康保持のため自己管理を行うよう指示し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝えること、副業・兼業の状況も踏まえ必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施することなど、労使の話し合い等を通じ、副業・兼業を行う者の健康確保に資する措置を実施することが適当である。また、副業・兼業を行う者の長時間労働や不規則な労働による健康障害を防止する観点から、働き過ぎにならないよう、例えば、自社での労務と副業・兼業先での労務との兼ね合いの中で、時間外・休 日労働の免除や抑制等を行うなど、それぞれの事業場において適切な措置を講じることができるよう、労使で話し合うことが適当である。

引用:副業・兼業の促進に関するガイドライン|厚生労働省

労災保険について

労災保険は、労働保険の一種であり、賃金をもとに算出されます。つまり、副業の場合、十分な補償が受けられない可能性があります。 しかし、2020年9月より、副業者における労災保険の算定方法が改定され、複数の事業者の業務量や労働時間などを総合的に加味して労災が認定されるようになりました。ただし、労働基準法が適用されないフリーランス・個人事業主、役員などは、労災の適用外となるので、注意が必要です。

まとめ

本業と副業あわせて8時間を超過していれば残業代が支給される……。意外とこの事実を知らない方が多いのではないでしょうか。副業においては、労働管理や健康管理を自身で管理し、自分で自分の身を守る必要があります。不当な労働状況を強制されないためにも、本日紹介した副業と労働時間、残業の仕組みについて覚えておきましょう。

【監修】
社会保険労務士 八ツ星亮

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