お寺を活用した持続可能な地域活性化活動~寺コワーキングと精進料理の会~

今、全国の地域では様々な地域に根付いた取り組みが行われています。生まれ育った地元で何かやってみたいけど、自分は何ができるだろう?その地域の特色を活かした、地域の人と一緒にできる、続けていける活動とはなんだろう?そんな疑問や課題を抱えているのではないでしょうか。

この記事では山梨県北杜市白州町にある曹洞宗の白砂山 自元寺を活用した2つの事例をご紹介します。

  • みんなのテラコヤ(寺コワーキング)
  • 北杜の野菜を精進料理でいただく会(お寺 × ごはん × 地域活性化)

「地域に開かれたお寺」を目指して

白砂山自元寺は、永平寺・總持寺を本山とする曹洞宗のお寺です。1570(元亀元)年、武田四名臣・馬場美濃守信房公によって白須坊田に建立、江戸後期に焼失下のち1843年に現在の地に再建されました。江戸時代は寺子屋、戦時中は疎開先としても活用されていたそうです。

住職の山崎 秀典(しゅうてん)さんは、白州で生まれ育ち、大学を卒業してすぐ、大本山永平寺にのぼり、3年の修行後、自元寺に戻り、29代住職に就任されます。
「地域活性とは、爆発的な何かをするのではなく、地域の皆様が課題や危機感持つこと。人々から滲み出るよな危機感や希望、夢が形となって繋がり活動となっていくこと。お寺がその活動の一助となれるならば、私は嬉しいです。」と話す山崎さん。お寺の在り方を考える「未来の住職塾」を受講し、地域の方々と共に創る寺院づくり、地域活性化の活動に取り組まれています。

「朝のお寺のお勤め Temple Morning」
お寺を丁寧に掃除をして、坐禅(ざぜん)で自分を見つめる時間です。

「白州2050+ちょい呑み屋」
2050年の白州がどうなっていたら嬉しいか?そのため今何ができるか?
お酒を呑みながら考える会で、20名程度の方々が参加しました。「未来の白州がこうなってほしい」「地域のためにこんなイベントや事業を立ち上げたい」というテーマの元、参加者が自由に意見を出しました。

また緩和ケア公認定看護師を招いて「よりよい生き方」について学び・語り合う「寺カフェ」では「死から生きることを考え語ろう」、「寺カフェマネ部(ライフプランと死と保険とお金のお話)」というテーマで開催しました。
この他にもヨーガや茶道の地域在住の講師をいた「古式ヨーガの会」や「お茶会」も定期的に開催しています。

人が集まり・繋がり・学ぶ場所:「みんなのテラコヤ」

お寺は昔、人が集まり・繋がり、そして学べる、地域に開かれた場所でした。そんなお寺の役割を現代に復活させ、子どもはフリースクール、大人はコワーキングとして、みんなで遊んだり、仕事したり、と自由な時間を過ごせる場所として「みんなのテラコヤ」を開催しています。

共同主催は、北杜市在住の音羽真東さんです。音羽さんは「自分たちで自分たちのまちをつくる」をテーマに、地域の交通や空き家対策など北杜2050という市民グループの中で、本業のプロジェクトデザインの知識を生かして、地域課題を解決すべく活動をされています。そして、山崎さんとの話をするなかで、「地域の活動を通じて色んな人と出会い、地域の子ども達に世界を広く知ってほしい」と言います。

「学校と家以外の場所で多様な人との関われる『居場所』を作る必要性を感じていて、その『居場所』で子どもたちの可能性、興味関心の対象が広がり、自発的な学びのきっかけになっていくことをサポートしたい。」そんな想いが共鳴し「みんなのテラコヤ」はスタートしました。

「みんなのテラコヤ」の1日は朝のお勤めTemple Morningで始まり、あとは自由時間。
1日の中で様々な学びあいコンテンツが開催されています。

  • みんなの遊び場(遊びによる学びの場)
  • 寺子屋アイオーティー(子ども向けのプログラミング学習)
  • 子ども向けお金の学習
  • 「メンキョイラズ」交流会(相乗りで「免許いらず」でも生活ができる地域の移動手段)
  • 精進料理の会
  • インターネット&パソコンスクール

「みんなのテラコヤ」は10月に第1回を開催し、月2回ペースで現在までに5回開催しています。
地域の子どもや大人が気軽に集まれる空間があることで、自然に学びあい・語りありが発生し、そこから地域の課題を解決する行動が始まるきっかけとなっています。

今後はもっとお寺が地域に開けた場所になり、子どもたちが自然に「お寺に遊びに行こう!」となることや、東京や他地域から北杜に多様な大人や外国人が滞在する時に「みんなのテラコヤ」に参加し、人々が循環していくことで子どもたちの学びの機会を増やしていくことを目指しています。

お寺 × ごはん × 地域活性化 ~北杜の野菜を精進料理でいただく会~

皆さんは「精進料理」はどんなイメージをしますか?仏教徒のご飯?ベジタリアン?質素倹約なお坊さんのご飯?

精進料理とは、日本の精進料理は中国で仏教を学んだ僧侶たちにより、鎌倉時代に伝えられ、広まったと言われています。今ではビーガンやベジタリアンなど動物性の食材を使用しない料理の流行とともに、世界から注目されています。

「精進料理は植物性の食材を使うだけではありません。技術はもちろんですが精神性、考え方に重きをおきます。食物=いのちであり、それを根底に置き、食材、料理やお給仕、食事作法を通じた在り方、細部に気持ちをが注ぐことが重要なのです。」と話す山崎さん。

精進料理の食事中のお作法は1口ごとに器と端を置き、噛み、そして次の一口を頂く。食事中はお話はしません。目の前の食事へ集中する。昆布やきのこからお出汁をとり、料理の味付けはシンプルに醤油、砂糖、塩、お味噌など家庭にあるものです。お出汁の味、野菜の味を存分に感じることのできる料理です。現代の私たちの身の周りにある食べ物は、科学調味料が使われ、味が濃いもので溢れています。

「野菜の本来の味」は覚えていますか。私は山梨に帰ってきて、北杜の野菜を頂いた時に「これが野菜だ、山梨の野菜美味しいな」と感激したことを今でも鮮明に覚えています。

今、地方では農家の後継者不足、耕作放棄地の増加、野菜の生産率の低下など、私たちの暮らしの中の食の問題が山積しています。現に高齢化が進む農家さんたちは畑を辞め、畑や田んぼが空き、「地のもの」が減っていく、そしてゆくゆくはなくなってしまう、そんな未来はもう始まっています。

まずはこの地域に住んでる私たちが「地元のものを知ること、楽しむこと、買うこと、食べること」そこから地域活性化は始まるのではないでしょうか。そのきっかけとなる「ごはんの時間」をどう作っていくかが私にできる活動だと考え、「山梨ごはんのある場づくり」をしています。

話が逸れてしまいましたが、地域活性化とごはんの活動のことを思案中に、山崎さんから精進料理の心遣いとお作法を学ました。今の私たちが知るべき、大事なことを教えてくれる精進料理を学びながら地元の野菜を楽しむ時間を作りたい、という想いで会を開催しました。
今回のメニューはこちらです。地域の方から頂いたお米と大根やカブなど旬のお野菜を使った6品です。

  • 大根葉と油揚げの炊き込みご飯
  • 大根の皮とお出汁をとった昆布のきんぴら
  • かぼちゃのお味噌汁
  • お出汁をとったしいたけの甘煮
  • ハヤトウリのお漬物
  • 白菜とカブの浅漬け

精進料理では食材=いのちと考え、いかにして最後までいのちをいただくか、を大切にしています。出汁をとった昆布やきのこ、大根の皮も調理して美味しいおかずにして頂きます。お出汁をとった昆布と、大根とカブの皮のきんぴらは、ごま油の香る、香ばしい味付けにしました。

調理を終え、残った残飯はこれだけ。これらもコンポストに入れて畑の肥料にします。
最後はお茶と漬物で器を綺麗に拭いて、片付けます。食について考えること、食事が自分の元に届くまで多くの人の手や想いがかけられていることに思いを馳せる時間を楽しみながら持つことも良いのではないでしょうか。

参加者の方からは「いつもよりゆっくりと素材を感じながら食べれた」や「ゆっくりと感謝しながら食べることを改めて思った」、「この食事が命をいただく価値のある自分であれるか?と己に問う、そう考えながら食事をしたいと思います。」などのお声を頂きました。

まとめ

いかがでしたでしょうか。お寺を活用した地域活性化活動をご紹介しました。【仕事、ごはん、宿題、遊び】という生活の一部を地域のみんなと共有すること、お寺という、いつもそこにある地域のみんなの拠り所を拠点とすること、そこに継続的な地域活性活動をしていくことのヒントがありました。皆さんの地域でも取り入れてみてはいかがでしょうか。今後の白州自元寺の地域活性化活動の展開をお楽しみに。

輿石 真帆

輿石 真帆 (山梨の美味しい食材を使ったごはんをつくるひと)

山梨県甲府市出身。小さい頃から料理が好きで、学生時代にはカフェを経営。新卒で6次産業の飲食企業に就職。生産者と消費者を繋ぐ役割の素晴らしさ、接客の楽しさを実感しながら渋谷の居酒屋で副店長として奮闘。その後山梨にUターンし、地元の食材を使ったフレンチレストランで働く中で「山梨の食材の豊かさ」に気づく。現在は、法人やコミュニティの宿泊研修での合宿での食事提供、ごはんイベント企画、出張料理などの「山梨ごはんのある場づくり」活動中。山梨の農家さんとの収穫体験ツアーなども実施している。

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